【批評祭参加作品】失われた「鈴子」を求めて/香瀬
 
試験には受からなかった。筆記試験は三回目に合格してそのあと七回つづけて口頭試験でうまくいかなかったから。あたしが出会った面接官は合計二人でそのうちの一人とは街で何度かすれ違って気安く挨拶なんかしてみたけど、だからといってそれだけじゃうまくいかないもの。そのとき、事実上あたしは人生をはんぶんあきらめた。人生のはんぶんがどこからどこまでか決めることはもっと複雑だけど、とにかくあたしは人生のはんぶんをあきらめることを決意した

あたしはしばらく泣きそべった。だれのハンカチかしらないけどそれで涙をふいた。


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いわゆる遺産というものはだれの手にもはいらなかった。それはホーキンスさん
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