赤の缶詰/杠いうれ
か
今日もいまいち分からないまま 先程転がった(そしてすぐ静止した)缶を拾った
缶は空き缶ではなくて 封の開いていない缶詰だった
薄い紙のパッケージは剥かれていて
落とし主の性格なのか何か他意があるのか 緑色がところどころ張り付いたままである
ところどころなので中身は不明だが ZUTATEN: ――昔憧れた国の言葉が読み取れた
成分。
でもその先は剥かれている 独逸で、きっと無機質な機械に大量生産されたのだろう
イメージってときどき馬鹿馬鹿しい
缶詰が規則的に並んでいる姿は美しいだろうな
不規則に揺れる苺をてのひらで弄る
てのひらの苺は しれっとマーケットの苺みたいな顔をしている
髪に繋がれたままだというのに
缶詰は 振れば窮屈にこぽこぽという音を鳴らした
中身は分からないけれど
今日は分からないままがお誂え向きな気もするし
こぽこぽを聞きながら 缶詰の中身は苺の煮たのなんじゃないかななんて
勝手に合点がいったような清々しささえ覚えて
ゆっくり階段を上っていった
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