山中以都子詩集『水奏』/渡 ひろこ
父よ/そちらからも/みえますか/
(「桐の花」)
これからしめやかに奏でられる音楽のプロローグのように、
この詩集冒頭の作品は、ポツポツと置かれた言葉と行間の隙間から、
深い作者の思慕が滲み出ている。
わたしが撮ったこれがあなたの最後のスナップ/上半身だけ引き
伸ばして/きょう 黒いリボンで飾ります/
(「リボン」)
父との別れを自分に潔く言い聞かせる様が、より切なく響く。
野辺の送りの痛みを、また作者自身も黒いリボンで包んでいるのだろう。
重ねた年月の記憶は時間を経るごとに、遺された者の胸に浸透してく。
一枚の写真から、作者は亡き父との邂逅を果たせたのではないだろうか。
黄泉の国から小舟に乗って、そっと娘に会いにきた父への思いを綴った鎮魂の一冊である。
『詩と思想』2009年11月号掲載
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