山中以都子詩集『水奏』/渡 ひろこ
 
 詩集の表紙には闇夜に浮かぶ舟の漁火が、誘導するようにふわりと灯り、
誘われるまま詩集を開くと、霧の中に佇む一艘の小舟の写真が出迎えていた。
山中以都子さんの詩集『水奏』は、もうここから始まっている。
「ああ、このちいさな舟を操って、向こう岸から逢いにきてくれたのか…。」(作者あとがきより)
 街角の画廊で一枚の写真に呼びとめられたことにより、
これまで出版された三冊の詩集から、父親への追悼をこめて編まれたアンソロジーである。
 
 山すその火葬場に/ひっそりと いま/霊柩車が入ってゆく/棺
 によりそうのは/とおい日の/わたしか/はす池のほとり/しん
 と空をさす/桐の花/父よ
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