ヒトラーの焚き火/吉岡ペペロ
 
年若い側近たちが

まじめな顔をして公文書を焼いていた

四月の夜だった

焚き火の明かりが

周りの壁に影をめくっていた

憔悴した彼がそこに立っていた

髭のうえの彼の鼻が

四月の夜の香をかいでいた

煤の匂いなかに

人生さいごのリラの香をかいでいた
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