だからといってそれが冷めてしまうまでここでこうしているわけにはいかないのだ/ホロウ・シカエルボク
の扉には記してあった
彼の背中が見えるベンチに腰をおろして
彼をここに座らせているもののことを思うとほんの少し寒気がした
網膜の中へ飛び込んでくる冬の陽射しは取り返せない時間のようだ
紙カップの中のコーヒーから立ち上る湯気のせいで世界はすべての実像を失い
休日の行き交う人々は声だけで存在を維持しているみたいに見える
瞬きをすると自分自身が
誰かと入れ替わってしまうようなそんな気がして
ずっと目を開けたまま遠い世界を眺めていた
ほんの少しこれから何をすればいいのか見えた気がしたのは
君の瞳がかすかに脳裏をよぎる瞬間だけだった
コーヒーを飲みほしてしまうときっとそれは夢のようなものに変わってしまう
だからといってそれが冷めてしまうまでここでこうしているわけにはいかないのだ
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