滑った感じ/八男(はちおとこ)
 
しないのはわかってる。
 
 そのとき私のカバンに入っていたのは、石川啄木の句集だった。かなりシュールな句が多く、爆笑しながら読んでいた。若いなりに、啄木をそうやって掴もうとしていたのだ。だから今、若いやつに誤解されたって構わない。そうやって掴もうとしているのだから。
 だから、老人が啄木のことを「あれは笑って読むもんや」言って、悟ったような顔をしていたら、気を付けよう。眉唾ものである。決して「さすが年の功、言う事が違う」と唸ってしまってはいけない。なあに、若いころに無理やりに掴んだ実感を、訂正もせずに引きずってきただけだから。

 やとばかり 桂首相に手とられし夢みて覚めぬ 秋の夜の二
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