△6℃/atsuchan69
燃やし
少年は暗く虚ろな夜明けに鍋を煮る
小さな汚れた手で、粥をはこぶ
狭く散かった家の中には床に伏した女がいて
暗がりに覗いたその蒼い顔の女へと
少年は湯気の立つアルミの器を届けた
どうか生きつづけて、母さん‥‥
みすぼらしい身なりの少年は
唯一ただ、それだけしか願わなかった
かつてフランス革命の時代、
ジャコバン党、ロベスピエールは清く純粋だった
近代では偉大なるスターリン
ブラウナウの孤高の狼ヒトラー、
みごと周囲の反対を押さえて原爆を投下し
憎むべき劣性種である日本人を
地獄の業火で三十万ばかし焼き払った
酷く近眼の男、トルーマン然り
それでも少年は青洟を垂らし
これから先、永くつづく氷河期の訪れに
懼れ、絶望することもなく
凍った土を穿っては、やたら逞しい芋蔓を引き抜いた
たぶん、歴史上の誰にも優って彼は純粋であり
厳しい未来を生きる人間のうちで最も誇るべき一人だった
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