記憶の感覚/空都
ずっとずっと遠くまで私を背負ってくれたあの人。
あんな公衆の面前で
無茶なお願いをした私に
仏頂面のまま
それでも、背中をさしだしてくれたのは何故ですか。
その薄くて柔らかな皮膚の下の
硬くてしなやかな筋肉が
ゆっくりと動いて
私を地面から持ち上げた感覚を
私は未だに忘れることができません。
痩せていて背の高いあなたは
実は、とても優しくて強い人でした。
そのまま普通に歩きだしながら、
あなたはその、耳に心地よい低い声で
他愛もない話をしてくれましたね。
わたしは精一杯それに応えていたけれど
本当は泣きだしたい気持ちでいっぱいでした。
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