そこからどうするか/瀬崎 虎彦
 
壁の土がぼろぼろとくずれてきた
かつて誰かもこの壁をにらみ
抜け出そうと足掻いていたはずだ
僕は透明なチューブの中に住んでいる新種だ

外の世界は吹雪 街路には名前の失われた
作家の墓碑銘が 死そのものだけを伝える
記念碑となっている。

声をかけると人間のかたちをした何者かが
ここはお前のようなやつの来る場所ではないと言う
生まれる前の記憶からつい昨日の記憶まで焼けるように熱い
回転し反響を残して消えていく
真冬ならばあきらめもつき
窓のない部屋ならば目を閉じる必要がない

俺はついている

と姿を臭い水に変えた男が言った

僕はなんだか面倒ごとに巻き込まれて
嫌気が差している最中だった

部屋に残されていた本はすべて
神学と数学に関連するものだった

時計はないがある時刻になると
足音が近づいてくるので
それが僕の記憶を区切る栞になる

閉じ込められて
時間に蝕まれて
さて そこからどうするか
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