アスレチック・ベイビー/りょう
やっと年に一回の
大江戸花火大会が
はじまった
花が咲き乱れきった後
最後の一発があがった
花火職人の与作は
世間から
つまはじきにされていた
よく肩をふるわせながら
顔を洗っていたもんだ
その与作の花火が
最後だった
もはや見物客が
帰ろうとしていたころ
頭上にミルキー色が
広がった
黒い部分を飲み込むように
薄紫色の筋がうねりながら
山や海の後ろまで包んだ
与作は言う
競ったり
合わせることなんて
何もねぇんだ
俺らは
泥の中で這いずりあう
赤ん坊どもさ
そしたら
乳色が一番
幸せになれるって
もんじゃねぇか
職人も見物客も
元の星空に戻ったあとも
想い出すように
見上げ続けた
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