、秋、冬、土/A道化
 



するり、逃げ
架空の生き物のように、人の手には触れられず
するり、猫は逃げ
けれどいつか


その気儘な速度の肢体にある肉球で地面を圧することをやめ
肉球を翻し、力無く、空に、露わに、翻し
そのまま横たわった猫は誰かの反対車線にて、急激に速度を緩め
緩めれば緩めるほど、テリトリーを狭め、狭めれば狭めるほど
急激に具体的になってゆく
するり、とは、もう逃げず


顎が、具体的に震える短い秋に、その潤んだ頭部・その潤んだ瞳が
ふと、完熟し
猫に残された最終的なテリトリーへ突如現れた冬は
冬は徐々に車輪や風によって抽象的になりながら
永く続き、抽象的になりながら永く土のように
冬は永く続き


永い冬には
逃げるまでもなく架空の猫はもう人の手には触れられず
嗚呼、この世界で人の手が触れられるのは
土、土、土ばかり、土ばかりだよ



2004.9.21
戻る   Point(5)