しき/サカナ
8月のはじめの
まだ水のあふれていた庭で
あたためておいた6月の
水々しい果実を口にする
風をおとしたような日陰には
小さな花が咲いて
あれは5月の始まりの
ささやかな名残なのだと思った
桃という名のくだもので
囁き合ったのは2月
以来待ちこがれていた庭で
12月の子どもと並んで居る
いとしい果実はやわらかくむかれて
思わず戦慄したのは
10月のあなたの皮膚が
あの皮のようにするりとむける様を想ったから
果実は幼児の手の中でまるく
6と10とは繋がらない
日々の安堵をつめたような1月に
4月の帽子屋が紅茶の中に種を
3月の兎がそれを飲み
小
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