君を愛している/草野春心
 
 会いたいというより会っておきたいっていうか
 会わずには居られないというか
 それぐらい君のことが大好きで愛しくて
 でも反対に僕は
 自分のことが大嫌いで憎くて仕方なく
 自転車の後ろに君を乗っけられないぐらい
 力も弱いし腕だって手羽先みたいに細い
 最近すごく痩せてさ
 誰も自分でふれたことのない骨にだって、
 簡単に触ることができるほどさ
 心ももちろん弱くて卑屈で頼りなくて軽度の鬱で
 爪を噛むのだって本当はやめたいし
 君は美人じゃないし嘘つきだし見栄っ張りだ
 それでも僕は救われているよ
 君が「そのままでいいのよ」も「しっかりなさい」も言わず
 「愛しているわ」さえ言わずにいてくれることで
 そして沈黙だけを差し出してくれることで
 僕は救われているよ、許されているよ
 だから僕も君に何も言わないようにしてる
 暴発しそうな気持ちに栓をしてね
 だからこうして水曜の午後を君に差し出している
 でも
 たぶん死に際ぐらいには
 ちゃんと君に言うつもりだよ
 爪がなくなっちゃうぐらい
 君を愛している



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