もう唱えない/殿岡秀秋
 
があっても
南無南無南無と口ずさむことはしない

喉から
風のように出ようとする題目を
口をダムにして塞きとめる

うなだれるぼくを
もうひとりのぼくが観察しながら
胸に画板を開いて
スケッチして
後でコトバの絵にする

南無南無南無のかわりに
コトバで
目に見える風景を描く
ひとつひとつ
木にぶらさがる
みかんの実のように
ぼくの動悸をかたちにして実らせ
自分で摘みとる


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