これほど美しい悲劇を見たことがない/相田 九龍
 
『罪と罰』
のちょうど半分を読み終わったところで
私はズボンと下着を上げようとした
そこは国内で広くトイレと呼称されている部屋で
しかしトイレと呼べば
必ずこの部屋を指すわけではなく
つまりトイレとは役割を示す言葉で
私の家のトイレという使命を負ったその部屋を私は
意気揚々と後にしようと
テンポ良くレバーに手をかけた

そのとき誰のどんな悪戯か
ズボンのポケットからするりと
私の携帯電話が便器に落ち
みるみるうちにパイプの奥に飲み込まれていった
ご丁寧にもそのパイプは最新式の
不快な音を消す仕組みをしていて
水の流れる軽快な音だけが無惨に響いた


しばらく
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