犬印のひと/恋月 ぴの
 
ゃぶりだったり
きれいに畳まれ、押し花然としたあぶちゃんだったりした

相変わらず手紙にはそれらについて何一つ触れられてなくて
偏狭な片思いにも似たノスタルジアというか
物ごころつく前のわたしにはそれらについての記憶なんてあるわけ無い
「これはあなたが泣いて離さなかったガラガラなのよ」
遠い昔を懐かしむように母から語りかけられたとするならば
「ああ、そうだったわね」と頷いてはしまうのだけど

初雪の便りしだいと遅くなってゆくような

湯上りの薄暗がりを素っ裸で寝室へすたすた歩み
何を思ったのかベッド下の小さな衣装ケースからそれを取り出すと
鏡に向かい産まれ来るものをいたわるように下腹部へそれを巻くひとりの女

それはわたしなんかじゃなくて
遥か遠い昔の
初雪よりも真白い肌した若かりし頃の母の姿

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