犬印のひと/恋月 ぴの
 
結婚しないわたしへのあてつけなのかなと思った

今更ながらの大ぶりな段ボール箱の底
つややかな赤い実りをいたわるかのようにそれは敷かれていた

一見して母の達筆を思わせる簡潔な手紙には何一つ触れられていなくて
お礼の電話でもどうしたものか言いそびれてしまった

押入れでもあれば仕舞い込んでおくのだけど
初雪の肌触りには産まれ来るものへの願い込められているように思え
あっさりと捨てるわけにもいかずベッド下の小さな衣装ケースへ押し込んだ

それからだったと思う

季節の折々に送られてくる仕送りに添えられた思い出らしき品々
あるときはガラガラだったり
セルロイドのおしゃぶ
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