おいかけっこ/なかがわひろか
が
無常にも宙を泳ぐばかり
私はたくさんの時計を買ってきて
部屋中に時間を狂わせて置く
時が勘違いして
進めてしまうのを止めてしまうようにと
もしかしたら時間を戻してしまうようにと
あなたは笑って
私の作業を眺めて
「君は本当に面白いなあ」と言う
私が必死な姿を見て
あなたは少し声を上げて笑う
また一つ体力を使って
目の前の死に手をかける
振りほどこうとしても
「僕はこっちと仲良くするんだ」
そう言って
私の前で死と強く手を握り合う
こんなときまでもあなたは
平気に私以外のものと親しく触れ合うのだ
それに私がどれだけ嫉妬しようとも
私には何も手を出さないあなたは
悪気を感じるでもなく
身を深く絡ませるのだ
やがてあなたは私がここにいるにも関わらず
恍惚に似た顔をして
そちら側に行くのだ
私は部屋のどこかにいる死を捕まえようと
部屋中をかきむしるのだ
(「おいかけっこ」)
戻る 編 削 Point(2)