どこにも残らないのにみんなそのことを覚えている/ホロウ・シカエルボク
窓の向こうに雪が降り始めているのが判る
僕は愕然としてひとりだ
吹き始めた風が激しい声を上げて
まるで誰かを責め立てているかのようだ
数十分前に電話機が一度だけちりんと音を立てて
部屋の中はそれきり沈黙しているというのに
読みかけた詩集はとあるセンテンスでつっかえて
栞を挿んで机の上に投げ出したままになってる
音楽はずっと続いているけど
今流れているのが誰の曲かなんて判るほど
熱心には耳を傾けていない
数時間前に飲んだ紅茶のカップ
底に少し残したままで寂しそうにしている
壁に掛けた時計には秒針がないので
時の過ぎゆくさまは漠然としか理解できない
窓の向
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