コントラバスは昏睡していた/エズミ
庭で練習していた。今度の日曜日は運動会なのだ。遠目からだと、手足の先端がきらっと光る子供たちのひとかたまりに見えた。すごく生真面目そうに並んでいた。コントラバスも一台、横倒しに待機していた。女の先生が両手を大きく振って指揮していた。一オクターブぶんの音階を皆で何回も合わせていた。今度の日曜日に間に合うか、ちょっと怪しい習熟度ではあった。軽快な行進曲でも演奏するのかと期待して待った。鳴りだしたのは、なにか民謡を吹奏楽向けに編曲したもののようで、濃ゆいかんじの演歌に聞こえる。温泉地の宵の口を思わせる旋律で、そこはかとなくえげつない。てんでんばらばらのぎくしゃくしたリズムはたちまちほどけて、たんぼに向かって音は逃げていった。ゆるい。重篤にゆるい。笑った。コントラバスは昏睡していた。
戻る 編 削 Point(5)