コントラバスは昏睡していた/エズミ
 
たんぼを適当に切り抜いて、開いた空間に建てたような小学校だった。敷地とたんぼは舗装道路でくぎられていたが、ブロック塀や植え込みで囲われてはいなかった。校舎はカステラのひと切れみたいに呆然とつったっていて、校庭は放心していた。わずかに保った正気のはずの二百メートルトラックは、ところどころ切れていた。五月の終わりころには芝生の植わった校庭のへりは、野原に還ろうとしているみたいにクローバーが芽吹き、走りだしていた。すみっこに雲梯や滑り台やジャングルジムなんかが、ぽつらぽつら生えていた。晴れた日の午前中に通りかかると開け放った窓から、陽気な喧騒がひよめいていた。
 その日の放課後、ブラスバンドが校庭で
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