「詠唱」/望月 ゆき
 
だけが残り、街が形成されていく、のだとしても、あなたはいつかその片隅で、産卵してくれるだろうか。



日なたで、羽虫が舞う。いとおしさと、うとましさ、不規則に表情を変える、メトロノーム。移ろう季節の中に、いったい、いくつの音が存在するだろう。そのどれもが、記号によって意味を持ち、そうしてはじめて、産声をあげる。朝露が、葉脈に沿って落ち、わたしを穿つ。痛覚など、とっくに捨てた。街には、いつしか環状線が走り、無機質なアスファルトによって、音階の高低差は、ゆるやかにつながり、そこに楽曲が生まれる。



すずしく、汗ばんだ皮膚に、風が触れる。咽喉が渇いて、わたしは、太陽が高いことを知る。自らに、水を与え、潤す。その咽喉から、こぼれだす、祈りのことばを、五線譜にかさねると、そこに、抑揚がほどこされ、速度がちりばめられる。過去は、いつだって、未来によって、赦されていくのだろうか。そのこたえを見つけるためだけに、また無音の朝がくる、のだとしても、わたしは。祈りを、ささやかなうたごえにかえて、きっと、あなたに再生したい。}









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