兆し/石瀬琳々
 
「笑っているの」と訊ねると
「笑っている」と応える


木の葉が風に舞って
肩越しに落ちかかるまひる
赤い葉っぱが嬉しくて
赤い色がかなしくて
その指先をもとめて手をのばすの



耳を澄ますと冬の匂いがほら
木立の向こうの空の彼方から


何かが生まれる前の
何もない静かな片頬のえくぼ


雲間からこぼれる ひかり ひかり
何か囁くような かすかな予兆


落ちてくる
わたしのもとに落ちてくる
いつか雪になるだろうか
あるかなきかの手触りで
それは思いになるだろうか


(誰か知らないだろうか)



「泣いているの」と訊ねると
「泣いている」と応える


凍えた指先をあたためたくて
そっと手のひらを重ねたくて
手をのばすの



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