レンズ/伊那 果
何でもかんでも
捨てられないのは悪い癖
あのときの手紙まで
いまさら、出てくる 引き出しの奥から
すがりつく、わたし
逃げ腰な、あなた
ずるさが 今なら よく見える
あのころにごっていたガラスが
今はくっきりとレンズの役割を果たしてくれる
時が磨いたレンズ
あれからたくさんのたくさんの悲しみをくぐって
わたしはほとんど
腹の底でこらえることなどできなくて
いろんなところにもたれて
お酒に頼って
撒き散らして
生き延びてきました
あなたを憎むことも
あなたの隣の誰かをうらむことも
自分をさげすむことも
今はもうあまり、しない
過ぎ去った年月が与えてくれたもの
ただそれくらいのもの
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