破片を隠すあなたの手は、綺麗ね/あぐり
 
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滑るあなたの感触を憶えている夜に
赤い爪へ哀しみを載せれば
空に刺さった月の破片が名前を欲しがっていた

ささくれた薬指の皮を切ろうと鋏を探すんだけど
探すんだけど
部屋の片隅に転がっていた鉛筆に呼ばれる
細く続く音楽に溶けて
風呂場で死んでいる昨日を描き出すわたしの名前を
あなたが必死に台所から呼ぶのだけれども
わたしはそれが寝言だってわかっているから
もう、全部、わかっているから
後であなたの髪をいちばんの優しさで撫でてあげよう
怖い夢だったね
怖い夢だったね
叶わない願いは口にしちゃだめだよ
密かに想って、想い続けて
いつかひとりにだけ打
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