未だうまれぬわたしのこども/笠原 ちひろ
実家に帰ると
母は今の母で
わたしが思っているお母さんとは違う
いろいろあったもんね
川の形だって水の流れで変わるんだもんね
でもわたしの頭のなかのお母さんはやっぱりいつも不幸で
あたしが部屋にこもっていても
壁ごしに何かに八つ当たる音が聞こえてきていた記憶
気を抜いたら
いまのお母さんじゃなく
そんなお母さんを思いだすから
こわいよ
もういないものに対して
憎しみにふるえる
自分が嫌だよ
自分のこどもには
そんな思いはさせたくないと
万全を期したいと
決心するのだけれど
万全を期したいと
やる気まんまんだったお母さんが
あたしにはとて
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)