珈琲と黒真珠/楽恵
 
新月

月が新たに生まれ変わる夜

世界は何処も彼処も

静かなる闇夜



時計の針が12時を回って

私の眼はますます冴えてゆく


カップには

黒真珠のように鈍く光るブラック珈琲

今宵私が眠れないのは

濃く淹れたこの珈琲のせいなのか



あの晩

たまたま通りかかった古びた洋館の窓辺で

昇る月を待っていた赤毛の娘

今宵はどうしているのだろう



それを考えると

私はますます眠れずに

我が家の重い扉を眺めている



いつの間にか空いたカップに

再び濃いブラック珈琲を淹れる



私もまた誰かを待っている

あの赤毛の娘のように

眠れずに

誰かを待っている



それが誰だったのかは

忘れてしまったのだけれど



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