普通の椅子/
たもつ
普通の椅子だったのに
ある日、突然
わたしは人になった
初めて目でものを見た
初めて呼吸というものをした
初めて手でものを掴んで
初めて足で歩いたりもした
椅子に座らなければならなくなって
ああ、人になってしまったんだ、と思ったら
涙がポロリポロリと頬をつたった
そんなわたしを
椅子はただ冷たく支えている
背もたれの優しさに初めて気がついて
涙が止まらない
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