花氷り/結城 森士
春の日の斜陽
椿の可憐な血液が
夕暮れの雲に反射していた
蒼白く脈を打つ椿の花びらに
冷たい唇を湿らせて
白濁の吐息を吹きかけた
輪郭のハッキリしない感覚が
静かに傾く陽の光と共に
二つに分離していく
残された僅かな蒼空が
やがて地に墜ち
燐光となって
地平線への放物線を描く時
花びらは、静かに眠りの底に落ちていくのだ
そうして、暗闇の中に
静寂の陰影が浮き彫りになる頃
私の閉じた瞼の奥底に
赤い模様の浴衣を着た
一人の少女が姿をみせる
森へ行くのよ
大人びた声で背中を向けて
早足で歩いていくその先に
夜の闇を包括した
薄暗い森が広がっ
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