さよならの合図/木屋 亞万
 
たの思うあなたは
あなたが見るあなたと違う
あなたは私をそぎ落とす
パック詰めされる細切れの私に気付きもしないで

金魚は龍になるのだと私は思う
それは鯉だとあなたが言う
あなたと私は目が合わない
マトリョーシカのような入れ子式
金魚のおもちゃは龍になるだろうか

百年経てばどう?と訊けば
その頃はもうみんな死んでいるからと言う
私はあなたがわからない
あなたの中に閉じ込められている私がいる
そしてそれは結局私に似た私でないものだった

鶏の頭はいつ枯れ始めるのだろうと思う
いまが見ごろだねと君が言う

懐炉はいつか冷たくなるね
肌身離さなければわからないさ
でもいくら必死になっても懐炉は冷めていくもの
君の体温で包み込んであげればいいだろ
寒くなってきたらそれも無理だよ


さよならの合図は
どれだけ美しく飾り立てようとしても
寒い夜の生ぬるい涙
錆びた鉄の匂いが
さびしい

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