気持ちいっぱいあるでしょ/吉岡ペペロ
 
部室に転がっていた雑誌の表紙は手塚治虫だった
手にとって眺めていたら
女優の田中裕子のエッセイに目がとまった
もう20年以上まえ、平成元年のことだ

エッセイの内容は
ライトアップされた東京タワーについてだった
以前は夜になると
ぽつぽつと電気が灯っているだけだった東京タワー
そのぽつぽつの電気のなかに
女優は宇宙の闇を見つめていた
ライトアップされたことで
女優はちいさな宇宙の闇を失ってしまった

女優はエッセイのさいごを
たしかこんなふうに締めていた

ふつうって、いったいなんだろう、

女優はその答えを見つけたのだろうか
そのエッセイの題名ははっきりと覚えている
だからそれをこの詩の題としてみた
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