あの日/草野春心
あの日
僕は近所の土手に立って
透きとおる川の流れを
じっとながめていた
あの日
それは午後二時ぐらいだった
昼過ぎの太陽の
どうしようもない明るさを
僕は覚えている
見知らぬ少年が僕の
背後を通り過ぎてゆき
遠い物音が僕の
体じゅうに穴をあけていった
取り返しのつかないほど
あの日
世界は目覚めていて
目一杯の希望と絶望を降らせていた
あの日
それはひそかに終わろうとしていて
陽溜りのにおい
雑草のにおい
ガソリンのにおい
水のにおい
あの日
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