とある店にまつわる話/相田 九龍
店を出た
広い通りにはまばらに人がいて
車がたまに低速で通り過ぎる
何が売られているのか
よく分からない看板の店が数軒
不必要なほどカラフルだ
悲哀との距離感を分からない幸福を
塗りたくるとちょうどこんな色になるだろう
陽は優しい
昨日の映画が皮膚の内側を
もぞもぞもぞと遊んでいる
今ちょうど右肘と手首の間
陽を浴びたレンガの上で足を止めた
疼きが腿に変わる
春色した猫が 足元を追い越していく
振り返り、通りを遡る。少しずつ、足が早まる。
店を出てその店のことを忘れる
それはよくあることだろう
でも何が並べられて
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