早朝/霜天
 
いつものように。自転車を漕ぎながら、それ
だけを吐き出す。吐き出す、それだけを、肺
の奥に溜まった、重石のような私を。擦り合
わせる掌に、吹き掛ける私の重さ。こんなに
も温かいのに、早朝の、風の淀みよりも透明
ではない。今日も遠い、いなくなった人の影
を探して。私の声は、遠くそよぐビルの谷間
に、すとん、と。消えるのは一瞬で、沈んで
いくのは呼吸よりもゆっくりで。すとん、と
私の中のビルの谷間の、落ちていく。吸って
吐く、それだけのことが続かない。いつもの
ように朝が来て、早朝、私が漕ぐ自転車の音
が響く。それだけの間に、雨音に溶けてしま
う人たちがいて、見えなくなった背中を探し
出す人たちがいて。こんなにも、簡単に朝は
やって来て。こんなにも、優しく溶けてしま
う人たちばかりで。私は、吐き出した私を零
さないように、掌に受け止めて、染み込ませ
る。いなくなる人の背中を、これ以上溶かし
てしまわない為に。吸って吐く、漕ぎだす。
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