終末のT字/サトタロ
人影のない波打ち際にうちあげられたのは
鯨によく似ていたが
まだ若いT字カミソリだった
脛毛を追いかけて迷いこんだようだった
かなり衰弱した様子で
難儀そうに大きな呼吸を繰り返していた
近寄って体を撫でてやると
一瞬強ばったがすぐに受け入れてくれた
死期が迫っていることは手から伝わってきた
乾燥しないようにと常に体液で覆われているのか
潤んだカミソリの瞳を覗き込むと
私の羽毛布団が見えた
私はズボンの裾をまくり上げると
脛毛をつかんで一気に引き抜いて
カミソリの口に押し込んだ
確かにその時
カミソリも私も涙をこぼした
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