群像/生田
 
トローを頭に描いて少年はまだ不機嫌なバイクを駆り、走り出す。

 行くあては特にない。自分を持て余しそうな時に少年はバイクを走らせる。道なりに走ればどこに着くか分かっているから、知らない入り口ばかり選ぶのだけれど、最後は知った道に帰ってくる。田んぼの真ん中、直線に伸びる国道にぽつねんと赤く灯る信号の下で、少年はどうにも生きている心地がしない。

 今夜も屋台で、過ぎていく車のライトを眺めている老人は、ラジオの野球中継を聴いている。聴きながら酒のにおいのする男の客のためにラーメンを作る。ここ数十年、誰かのためにラーメンを作ってきた老人の、ラーメンを作る前の人生を客は知らない。知らないままに男は泣く。一杯の牛乳のために毎朝泣きたいといってた友人は、毎朝泣けずに泣きたいといったのだろう、だから、一杯のラーメンのために泣ける俺は幸せだろう、と泣いて、幸せだなんて思っちまう自分に、また泣いて、今夜も試合延長につき放送を延長して、とラジオの音声がのびたラーメンに響く。
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