フェリー乗り場のひと/恋月 ぴの
 
あかぎれた手の甲は膝のうえに重ねたままで
ふぅっと深くため息をついてみる

シャッターを下ろした売店脇の柱に掲げられた時計は11時55分過ぎを指していて

どうやら今夜もフェリーは出航しないらしい

乗船券売り場の窓口はカーテンで締め切られ
だらしなくチェーンを渡した乗船口に係員の姿は無く
それでも、わたしを含めフェリーの出航を待つ黒い影がいくつも

広い待合室のベンチである種の覚悟を決めたのか
ただひたすらと息を潜めそのときを待つ姿は
ぽつりぽつりとワックスのきれた床を濡らす雨染みのようでもあり

時計の針は新たな一日の訪れをわたし達に知らせてくれた

少し離れ
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