木枯らしがぼくを飛ばしていった/あ。
木枯らしがからからと乾いた音を立てる
あらゆるものの輪郭がくっきりと描かれ
移り変わる季節への感傷に浸りたいのに
冷えた手は無意識のうちに摩擦を起こし
細胞の根元から発信される欲求を満たそうとする
親指から順番に動かしてみた
かじかんで動きづらかったそれは
繰り返すうちにだんだん滑らかになってきて
今だったらピアノだって弾けそうな
そんな気分になったりして
ピアノを演奏したことはないけれど
夜にこの辺りを散歩していると
幾種類もの虫が鳴いている
どの声がどの虫、なんてわからない
鈴虫やら松虫やらコオロギやら
多分そういうものたちだろう
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