room/本木はじめ
 

たぶん このままここで
窓を開けるといつも夜なのです
たぶん夜にしか開かない窓だからなのでしょう
いつも暗い空がどこまでも広がっています
あなたが今ごろあの波止場で
あったかいコーヒーを飲みながら
わたしを待っていたとしても
ごめんなさい 
わたしはそこへは行けません
たぶん このままここで

秋の河原に無言のまま座り込み夕日で溶けてゆく空を見つめているふたり
冬の波止場で青白い雲の合間の遠雷を聞いているふたり

たくさんの置き忘れられた傘のある下駄箱で取り残されたふたり
電車の中で過ぎ去ってゆく菜の花を見ているふたり

たぶんあなたは
もう気づいているでしょう
そこがどこなのか
そして僕がだれなのか
たぶんきみは気づいているだろう
そこがどこなのか
そしてわたしがだれなのか

あなたがそこから抜け出すには
きみがそこから抜け出すには


みちはひとつしかない


だけどきみはやさしいから
だけどあなたはやさしいので
きっとそのまま
そこにいるんでしょうね
きっとこのまま
そこにいるんだろうね

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