抽象画/千月 話子
帰った
金木犀の 甘い香りが
鼻の上から ふわふわ
また 流れてくるかもしれないと
低木に咲く小さな花々を
探しています
ここに来ることを知らせた私
ここに今居ることを知らないあなた
長い坂道のずっと上を見ていた私
長い坂道の上から自転車で降りてきた 誰か
私と 風と 誰か
横に重なって 惹かれるように振り向くと
流れる髪と 白いシャツに
忘れられない後姿を見つけ
今でも運命の輪は どこかで
繋がっているのだと
信じているのです
そこで出会ったことを知らせた私
いつも笑っていた あなた
本当のことは風にかき消されて
口の端から 零れていきます
あの頃の あの時間を 誰も知らない
私と あなたであろう人の
二人だけの 抽象風景
今頃あの場所は
季節の境目を縫うように
こちらに向かって
静かに やって来るのです
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