結び目/あ。
 

この時は深い考えがあったわけじゃないと思う


小さな身体をそっと手のひらに乗せる
腹のほうに結び目は存在しており
糸のわずかなすき間に爪を差し込もうとする


それは思いのほか固く結ばれ
力を入れて引っ張ろうとすると
玉虫の身体がつぶれそうに歪んでしまう


どうして糸を根元から切ろうとしなかったのだろう


もしかしたら誰も彼もが
見えない糸で結わえ付けられているのかもしれない
はさみで切ってくれるのを待つものもいる
身を固められて安堵するものもいる
世の中の仕組みは思っているよりもずっとシンプルだ


彼が何を望んでいたのかぼくは知らない
ただひとつ、目の前の結び目をほどくために
少なくともこの瞬間、そのために生きている


世界は今日も限りなくいとしい

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