創書日和「鞄」 こころのカタチ/逢坂桜
 
私の鞄は、私が使いやすいように、長く愛用できるように、
カスタマイズされた、私だけのオリジナルだ。

彼の鞄は、父親が長年愛用していた鞄を、是非にと、
彼へと受け継がれていた。

二人が共に生きる選択をできなかったのは、必然だった。

私は、二人がしあわせになる道を、手探りで進みたかった。
彼は、自分が育った家庭に染まることが、しあわせと思った。

いまも私は件の鞄を愛用している。

使い込んで年季を経て、ますます手放せない。

今日、これから会う彼は、どんな鞄を持っているだろう?

そして、彼はいまもあの鞄を使っているのか、と、
すれ違う人の鞄を見て、ほんの少しだけ、思った。

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