冬支度/吉田ぐんじょう
そろそろ浴槽に土や枯れ葉を満たして
寝床をこしらえておかなければならない
・
ほ と夫が飛ばした胞子を
掌で受け止めて
戸棚やクロゼットや食器棚など
あらゆる隙間に植え付ける
やがてそこいらには小さな夫が無数に生えて
隙間の米粒やほこりを食べて騒ぎだす
夫は冬になると
旅へ出てしばらく帰ってこないので
いつもこうしておくのである
夜中に起きてもさびしくないよう
たくさん飼っておくのである
そのうち小さな夫たちは
ゆうこゆうことさざ波のように
わたしの名前を呼びはじめる
なんてかわいらしいんだろう
だからこそわたしは
春になって目覚めたら
我慢できずにこの夫たちを
残さず食べてしまうのだ
冬の間に熟れた夫たちはとても甘い
まだわたしは生きてゆける
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