冬支度/吉田ぐんじょう
 
そろそろ浴槽に土や枯れ葉を満たして
寝床をこしらえておかなければならない



ほ と夫が飛ばした胞子を
掌で受け止めて
戸棚やクロゼットや食器棚など
あらゆる隙間に植え付ける
やがてそこいらには小さな夫が無数に生えて
隙間の米粒やほこりを食べて騒ぎだす

夫は冬になると
旅へ出てしばらく帰ってこないので
いつもこうしておくのである
夜中に起きてもさびしくないよう
たくさん飼っておくのである

そのうち小さな夫たちは
ゆうこゆうことさざ波のように
わたしの名前を呼びはじめる
なんてかわいらしいんだろう

だからこそわたしは
春になって目覚めたら
我慢できずにこの夫たちを
残さず食べてしまうのだ
冬の間に熟れた夫たちはとても甘い

まだわたしは生きてゆける




戻る   Point(12)