口笛/霜天
七時三十分の電車に傾く、あなたと共に行こ
う。想像する、上に空が継ぎ接ぎになって浮
かんでは消え、進行方向に語る言葉を持たな
い僕らは、聞き取れる音だけで口笛を吹く。
それだけの空間、それだけの存在。気付くも
のは気付いて、きっと誰も分からない。全て
が止まるまでの三十分を、その、隣に浮かん
でいよう。可能性という言葉の切れ端を、そ
れぞれの温度で信じ合いながら、傾く一日の
始まりに、口笛を吹いていこう。日々は加速
して。止まらないように出来ていることに気
付かない振りをしながら僕ら、は次のかたち
を夢見ることに傾きすぎて。一日は過ぎる。
口笛が聞こえる。空は継ぎ接ぎで、同じ色は
見えない。隣に浮かぶ、その時に分かること
ばかりで、踏み外しそうになる足を、深い呼
吸で切り抜けてきた。口笛を吹こう、聞き取
れる音だけで。答えを出す前の一呼吸を、応
答する無線の一瞬の間のように。わずかな隙
間に響かせながら、進行方向に、傾く。
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