テナントの空き箱/中原 那由多
眠れない夜はどうしようもなく
つまらないことばかり考えている
暗闇の微かな声を聞きながら
雑念の海を泳いでいれば
やがて疲れ果てては沈んでゆく
その頃、星たちはすれ違っている
門灯の白い明かりは
窓枠に切り取られて壁に張り付く
その左上をぼんやり眺めた後
その方向へ寝返り打った
殺風景な空気を吸い込み
身体の中さえ空白になってゆく
あの心はまだ生きている
パズルの隙間でおとなしく
独りオセロをしているような
笑えない作業の繰り返し
宴を楽しむ隣人たちは
私の平熱を知るわけもない
無情な思いに入り浸り
知らない部屋だと錯覚する
目の前に在るものたちは
おそらく私のためにあるらしいが
無言で哲学を指差していた
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