濁流/within
ていた。そして、三十分もしただろうか、心臓は止まり呼吸も静かに已んだ。最後は随分と苦しんだ。しかしその姿は、最後まで闘う、困難に立ち向かう祖父の生き様そのものだった。
それから二週間ほどして祖母も、肺の静脈が破れ、血を吐いて急逝した。深夜二時の出来事だった。ベッドには吐血した血の斑点が生々しくあったが、心臓マッサージを受ける祖母の顔はとても穏やかだった。最後の最後で苦しまずに終わりを迎えることができたのは、生前、真面目に生きることを信条とした、純朴な精神に対する神の恩寵のように思われた。
台風の去った後、残された僕は濁流の中にみなぎる生の気配を感じていた。それは、きよらかな清流ではなく、轟々と流れる泥流のようなもので、死の残していった塵埃は全て削ぎとられてゆく。いつか、僕も、この流れの中に入るのだろうと此岸に思った。
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