背中には向日葵/木屋 亞万
 
くるのに逆らって
追いかける、
鮭が傷つきながら上流を目指すように
声の源流に卵を産み付けてやる
だって私メスだもん、

花の名前でも言っていこうか、というので
血肉の花と白骨の茎に埋もれながら
発音されない撥音で、うん、と答えた
胡蝶蘭
私は食道を抜けていく
茶道華道剣道柔道食道
彼に食べられるために女を磨く
道を究めれば凡人には馬鹿にされるのだ
山茶花
肺を横目に消化器を抜け出し
腹筋の山脈を越えていく
もっと険しい山でいいのに
なだらかな丘陵が二つ三つ
もう声の幅はだいぶと細くなった
腰骨の方へ糸のような筋になって消えていく
背中を探ると
湿った繊維と大きな瘡蓋があって
この怪我どうしたの?と聞くと
向日葵と彼は答えた
私の指先は確かに感じ取っている
彼の背中に住みついた大きな向日葵の花

向日葵の花言葉、知ってる?
何?
わたしはあなただけを見つめる

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