汚れた川面を見つめている右目だけのアリサ/ホロウ・シカエルボク
目のことなんかどうだってよかったのに」
アリサは何度もそう呟いては身体を震わせた
アリサが貨物列車に飛び込んだことを知ったのは次の日の昼ごろだった
馴染みの駅員が電話で知らせてくれた
「わたしのこと忘れないで」と書いた俺あての手紙が
彼女の血をしこたま吸い込んだポーチの中から出てきた
俺はその手紙を机の引出しにしまった
夕暮れ時の堤防沿いはもう、すました顔で座っているにはちょっとキツいくらい寒くなって
俺はダウンジャケットで身体を包みながら
太陽が完全に挫けるまでそこにそうしていた
汚れた川のおもてはやはり汚れたままであって
俺はただひとりで
汚れた川のおもてを見つめているだけだった
右目だけのアリサ
いまでも俺は
おまえと同じ景色を見たいなんて考えたりすることはないよ
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