夜汽車/草野春心
 
  夜、汽笛の音が
  遠くから伸びてきて
  それが合図だった



  (ぼう ぼう
  (ぼう ぼう……



  鳴り終えた音楽の残滓が
  静止した街に滴る
  もとめる手のひらのような闇が
  背骨の中に染みこんでいった



  おそろしいほど正確に
  時間は僕たちを支配していた



  君は言った。
     「ねえ、本当の意味で
      私たちは今まで
      生きてきたって言えるかしら?」



  (ぼう ぼう
  (ぼう ぼう……


  *



{引用=とんがり帽子の脱走兵と
黒光
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